買い物とは、
時間を天命に変換する行為である
日焼け止めの成分を追いかけてみた日に、気づいたこと
箭内宏紀|実存科学研究所
賢い買い物って、
そもそも何だろう?
最近、健康についての洞察が深まる中で、身体のあらゆる領域を見直していた。
視覚、聴覚、歯──これらも順に検討してみたが、自分の中で大きな問題とは思えず、深く掘り下げるモチベーションが湧かなかった。
スキンケアについても同じように振り返ってみた。保湿、睡眠、栄養──これらについてはすでに書いてきたもので、ほとんど網羅できている。
ただ、日焼け止めに関しては、今一度考え直す必要があると思った。
これまで漠然と「良さそうなもの」を選んできただけで、本質的な検討をしたことがなかったからだ。これが今回の検討の経緯。
調べ始めたら、商品選びの話のはずが、もっと根本的な問いにぶつかった。
感情や衝動で買いがちな世の中で、意外と語られていない「本質的な物の買い方」について、今日はその思考プロセスを共有したい。
結論だけじゃなく、そこに至る過程にこそ、使えるものが埋まっていると思うから。
私たちは買い物をするとき、「自分の意志で選んでいる」と思っている。
でも実際は、ほとんどの選択が外部から刷り込まれたものだ。
私たちの選択の多くは、広告、社会的証明、ブランドイメージ、幼少期からの刷り込みによって、既に形作られている。これは私が別の文脈で「自由意志なき世界」と呼んでいる前提の一部である。
「高級ブランドが良い」
「フランス製は肌にやさしい」
「デパコスは信頼できる」
「安いものには安い理由がある」──
これらは全部、広告と社会的証明によってインストールされた信念で、自分の頭で考えて出した結論ではない。
「賢い買い物」というのは、この刷り込みから一度自由になって、数字と事実に戻る作業なんじゃないかと思う。
これは哲学の話に聞こえるかもしれないけれど、私にとっては実務の話だ。
お金を守ることは、時間を守ること、そして天命に向かう時間を守ることに直結している。
実際、今日の議論の結論を先に言ってしまうと──買い物とは、有限な時間を別の形の価値に変換する行為だ、ということに最後に気づく。
でもそこに至るまでの過程に意味があるから、順を追って書いていく。
日焼け止めに限らず、肉・魚・飲み物・サプリメント──消耗品は全部g単価で見るのが最強。これは今日、日焼け止めを調べていて改めて気づいた原理だった。
実際に計算してみて、自分でもびっくりした。
g単価比較(SPF50+/PA++++)
ラロッシュポゼ(30ml・約3,500円)──約117円/g
アネッサ(60ml・約2,200円)──約37円/g
ビオレUV アクアリッチ(100g・約780円)──約8円/g
無印良品 日焼け止めジェル(150ml・890円)──約6円/g
スキンアクア スーパーモイスチャージェル(140g・704円)──約5円/g
同じ「SPF50+/PA++++の日焼け止め」というカテゴリの中で、1gあたりのコストが約20倍違う。
ただし重要な前提がある。
g単価思考には「品質の下限」がある。安いからといって成分も信頼性もわからないものに飛びつくと、「安物買いの銭失い」になってしまう。
価格だけで並べるのではなく、信頼できる製造元・必要なスペック(PA++++など)を満たした製品の中で、g単価を見る。この順序を守らないと、この思考法は機能しない。
この前提を置いた上で、価格差20倍を正当化できるだけの性能差が本当にあるのか?──ここから調査開始。
ラロッシュポゼ → アネッサ → ビオレ → 無印 → スキンアクアという順で、一段ずつ成分を確認しながら降りていった。
途中で判明したのは、日焼け止めの防御性能を決める最重要成分が「Tinosorb S」というBASF特許の物質だ、ということ。
長波長のUVA(肌の奥まで届いてシワやたるみの原因になる紫外線)を止められるかどうかが、防御性能の核心らしい。
そして意外だったのは──
高級ブランドとして知られるラロッシュポゼに入っているこのTinosorb Sが、700円台のスキンアクアにも入っていた。
しかもロート製薬は独自の「光耐久カプセル技術」でこの成分をカプセル化して、紫外線による分解をさらに抑える工夫をしている。
単純な成分リストで見ればロート製薬の方が技術的に工夫している部分もある。
もちろん細部を見ればラロッシュポゼが勝る部分もある。補助的な抗酸化成分、フランスの温泉水、皮膚科医ネットワークでの数十年の検証実績。
高級ブランドとしてのポジションには、それなりの理由が確かにある。
ただ少なくとも、価格差20倍を正当化できるほどの防御性能の差は、成分レベルでは見えなかった。
ここで、さらに根本的な問いに戻った。
日本皮膚科学会・環境省の紫外線環境保健マニュアル・主要メーカーすべてが一致して推奨しているのは、「2〜3時間おきの塗り直し」という基準だ。
SPFやPAの数値がどれだけ高くても、この時間軸は変わらない。汗・皮脂・摩擦で物理的に日焼け止めの膜が落ちていくからだ。
どんなに高級な成分でも、2〜3時間で塗り直しが必要になるなら、高いのを1回塗るより、安いのをこまめに塗り直す方が本質的ではないか?
この問いが、全てを変えた。
日焼け止めの実効防御は、こういう式で表せる。
実効防御 = 成分性能 × 塗布量 × 塗り直し頻度
乗算構造。どれか一つでも低ければ、全体が低くなる。
g単価が安ければ、塗布量も塗り直し頻度も気兼ねなく増やせる。
安さは「性能を下げる妥協」ではなく、「運用を最大化する戦略」になり得る。
日焼け止めを「一度塗ったら終わり」の製品として見るか、「2〜3時間ごとに塗り直す消費財」として見るか──この視点の違いが、選ぶべき製品を根本的に変える。
もし思考停止してラロッシュポゼを買い続けていたらどうなっていたか。
教科書通りに適正量を塗った場合
顔・首・前腕に毎日たっぷり塗るのが日焼け止めの正しい使い方で、その場合の年間必要量は約1,200g。
これを両製品で計算すると──
適正量での差額試算
1年──ラロッシュポゼ 約140,000円/スキンアクア 約6,300円/差額 約133,700円
5年──約700,000円/約31,700円/差額 約668,300円
10年──約1,400,000円/約63,400円/差額 約1,336,600円
10年で約134万円の差。これは車1台分、あるいは海外旅行何回分というレベル。
留保:現実の使用量はこれより少ない
正直に言うと、年間1,200gというのは教科書通りの適正量であって、実際にここまで使う人は多くない。
顔だけに使って年間200g程度が現実的な消費量だろう。その場合の差額を計算し直すと──
現実的な消費量での差額試算(ラロッシュポゼ=顔のみ/スキンアクア=全身)
1年──約23,000円/約6,300円/差額 約16,700円
5年──約115,000円/約31,700円/差額 約83,300円
10年──約230,000円/約63,400円/差額 約166,600円
もちろん、経済的に余裕がある人はラロッシュポゼを全身にたっぷり使っても構わない。これは個人の収入や価値観の問題だ。
ただ、どちらの試算であっても、10年単位で見れば無視できない金額差になることは確かだ。
10年で17万円あれば、旅行にも行けるし、他の健康投資にも回せる。
その選択を、無自覚にするのか、自覚的にするのか──ここが重要な分かれ道だと思う。
というわけで今日は、スキンアクア スーパーモイスチャージェル ポンプ 140g(Amazon定期おトク便で704円)を実験として使ってみることにした。
正直に言うと、これよりもっと安くて成分が良いものが他にあるかもしれない。卸ルートを開拓すれば、1本あたり100円くらいさらに安くなる可能性もある。
でも、それを追いかけるのに使う時間があったら、トレーニングと食事と睡眠に投資した方が、私の天命遂行能力への貢献は遥かに大きい。
最適化には「止めどき」がある。
追加の労力がもたらす効用が、追加の時間コストを下回った瞬間が、止めるべきとき。今日はここで一段落にする。
今日のやり取りを整理すると、上位の思考法と、その下にある3つの実践原則、という階層構造になっていた。
上位の思考法:積の原理
まず、買い物の価値は足し算ではなく掛け算で決まる。これが全ての前提になる上位の考え方。
実効価値 = 性能 × 使用量 × 使用頻度
これは身体論における「積の原理」と構造的に同型。運動・栄養・睡眠のどれか一つが0になれば全部0になる乗算構造と同じ。単一項目を100点にするより、全項目を実用水準で埋める方が結果が大きくなる。
この掛け算を最大化するために、以下の3つの実践原則がある。
実践原則
- 信頼性と成分が大前提。単なる安さではなく、成分の質と製造元の信頼性が出発点。この閾値を満たさないものは、どれだけ安くても選択肢から外れる。価格だけで絞ると「安物買いの銭失い」になる。g単価思考には下限があるということ。
- 消費財としての特性を理解する。日焼け止めは消費財であり、2〜3時間で効果が薄れていく。時間が経てば効果がなくなる以上、「塗り直すこと」が何より重要になる。一度塗って終わり、ではない。この特性を理解せずにスペックだけを追うと、本末転倒になる。
- 継続可能性の構造を設計する。いくらスペックが高くても、塗り直さなければ塗っていないのと同じ。だから以下の3つが重要になる。(a)経済的に続けやすいか(g単価)、(b)塗りやすいか(ポンプ式・テクスチャー)、(c)習慣として継続しやすいか(玄関に置けるか、持ち運べるか)。
この3原則は、上から順に適用することに意味がある。
逆にやると、高級品の成分比較に時間を溶かして、結局高いものを買うことになる。
ここまで書いてきて、ふと気づいたことがある。
私たちが本当に持っているものは、お金ではなく時間だ。
働いてお金を稼ぐというのは、自分の時間を貨幣に変換する行為にすぎない。
そして買い物とは、その貨幣を使って、自分の時間を別の形の価値──健康、快適さ、美しさ、体験、所有物──に再変換する行為だ。
つまり買い物とは、時間の形態変換なんだ。
1時間働いて得たお金でラロッシュポゼを半分買うか、同じ1時間分でスキンアクアを2本買うか。
両方とも紫外線防御という目的を果たすなら、同じ1時間の労働が何倍の実効防御に変換されるかは、人生全体の時間効率に直結する。
そして、もう一段深い問い。
私は、自分の有限な時間を、何に変換したいのか?
この問いに答えられない限り、どんな買い物も迷走する。
これは厳しい言い方になるけれど、論理的には正しいはずだ。
目的が言語化されていなければ、そもそも「価値」の定義が定まらない。価値が定義できなければ、コストとの比較ができない。つまり、コストパフォーマンスという概念そのものが成立しない。
買い物が上手な人は、実は買い物の技術を持っているんじゃない。自分が何を得たいかを知っている人なんだ。だから、彼らは迷わず数式を組み立てられる。
逆に言えば、買い物に迷い続ける人、何を買っても満たされない人、ブランドや流行に流され続ける人──その背後にあるのは、たぶん「自分が何に時間を変換したいのか」という根本的な問いが、まだ言語化されていないということなんだと思う。
これは実は、身体論と同じ話だった
私は以前、身体論で「天命がなければ、どんなに身体を整えても迷走する」と書いた。方向原理と呼んだ。
買い物も全く同じ構造だった。
天命がなければ、どんなに賢く買い物の技術を学んでも迷走する。何のために時間を価値に変換するのかが決まっていないからだ。
だから、このコラムは日焼け止めの話に見えて、実は最後に天命の話になってしまった。
私は買い物について考えていたはずなのに、気がついたら自分の人生について考えていた。
結局のところ、賢い買い物ができるかどうかは、自分の天命が言語化されているかどうかにかかっている。
そして天命が言語化されていれば、買い物は自動的に賢くなる。収束原理が、ここでも働いている。
今日、私はスキンアクアを704円で買う決断をした。
ここで誤解のないように書いておきたい。私はこれを「安いから」選んだのではない。
私にとって買い物の基準は、最初から最後まで価格ではなく価値だ。
天命に関係する領域──食材の質、サプリメントの第三者認証、学びへの投資、トレーニング環境、睡眠の質──こういうところには、必要な金額を躊躇なく払う。
そしてこの日焼け止めに関しては、704円で実効防御が最大化される数式が成立している。それ以上払う必要がないから、払わない。
価値が低いものに1円でも多く払うことは、私の天命に向かう時間を削ることに等しいからだ。
でも、それよりもはるかに大きな決断は、もっと前にしていた。
「私は、自分の時間を、天命に向かうことに変換したい」──この決断が先にあったから、今日の買い物は自動的に決まったんだと思う。
正直に言うと、私自身もずっと天命を言語化できていなかった時期がある。迷いながら買い物をして、何を買っても満たされなかった時期がある。
だから今日書いたことは、上から誰かを見下ろしている話ではなくて、かつての自分にこそ向けたい話でもある。
明日もまた、私は何かを買う。その時、私が問うべきなのは「どれが安いか」でも「どれが良い成分か」でもない。
「これは、私の天命に近づく買い物か?」──この問いに戻ればいい。
これは正解を知っている人の話じゃなくて、今日ちょっとだけ、自分の買い物と自分の人生が同じ構造でつながっていることに気づいた人の記録として、読んでもらえたら嬉しい。
今回使ってみることにした商品:スキンアクア スーパーモイスチャージェル ポンプ 140g(ロート製薬/Amazon定期おトク便 704円)
※本記事は個人の実験記録であり、特定企業からの提供・協賛・広告ではありません。
買い物とは、
時間を価値に変換する行為である。
そして私は、
自分の時間を天命に変換したい。