宮崎駿監督『もののけ姫』のアシタカ、サン、エボシ御前を、実存科学の三つの構造──Meta(変えられない前提条件)、シャドウ(抑圧された影)、天命(Metaの必然的収束点)──で読み解く全3篇。
呪いを刻まれた皇子、人間であることを否認した少女、そして救済者にして神殺しの女。──
三つの構造が照らし出すのは、天命の道徳的中立性だ。
呪いを受けた者、呪いを生きる者、呪いを生み出した者。
──天命だけが、方角を持っていた。
ASHITAKA — Inherited Wrath
アシタカのMeta ── 自由意志なき世界の天命論
- Meta:エミシの最後の皇子。神殺しにより「ヒコ」の神性を剥奪され、右腕に呪い──力と死が同居する身体──を刻まれた追放者
- シャドウ:明晰さの下に封じ込められた破壊衝動。沈着さは美徳ではなく、呪いを暴走させないための構造的抑制
- 天命:「共に生きよう」──天命は瞬間ではなく存在様式。痣を残したまま対立の中間に留まり、解決しない問題を抱えて生き続けること
呪いはMetaであり、同時に贈り物である──右腕に刻まれた怒りが「共に生きよう」という天命の素材になるまで。
消えない怒りを抱えたまま生きている人へ。
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SAN — Inverted Shadow
サンのMeta ── 自由意志なき世界の天命論
- Meta:人間。15歳。乳児期に両親からモロの足元に投げ捨てられ、犬神モロに育てられた。人間であることを全面的に否認し、山犬として生きている
- シャドウ:反転シャドウ(アイデンティティ否認型)。「わたしは人間ではない」──生物学的基盤そのものの完全な否認。狼をやめたら、親に捨てられた赤子しか残らない
- 天命:「人間と自然の世界の間の橋となること」──森の側から架けられる唯一の橋。ただし映画の終結時点で天命は未到達。鎧に「アシタカの大きさの穴」が空いたにすぎない
狼をやめたら、そこには親に捨てられた赤子しか残らない──だから面をかぶり、山犬であり続ける。否認の鎧に穴を空けたのは、たった一言の「好きだ」だった。
自分が何者であるか、わからないまま戦い続けている人へ。
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EBOSHI — Systemic Shadow
エボシ御前のMeta ── 自由意志なき世界の天命論
- Meta:幼少期に海外へ売られ、倭寇の頭目の妻とされた。搾取の構造を身体で知り、頭目を殺して金品と最新兵器を持ち帰った女
- シャドウ:構造的シャドウ(Systemic Shadow)。個人の心理にシャドウはほとんどない。しかし彼女が建設したシステムが、その必然的出力として破壊を生み出す。「保護者」の鎧の内側にいる捨てられた子どもを、本人が見ていない
- 天命:「捨てられた者たちのための聖域を建設すること」──到達済み。ただし天命の出力が森を殺した。天命は道徳的に中立である
救済者にして破壊者。慈母にして神殺し──売られた子どものMetaが「聖域の建設」を出力するとき、その必然として森が死ぬ。「民のために」の裏にいる子どもは、誰か。
「誰かのために」建設を止められない人へ。
エボシ御前のMetaを読む →※ 本シリーズで扱う作品:宮崎駿監督・脚本『もののけ姫』(スタジオジブリ、1997年)。作品の著作権は原著者・制作会社に帰属します。