EXISTENTIAL SCIENCE RESEARCH INSTITUTE
メタ・リバース #01
コラム

メタ・フィクションと
カーテンコール

箭内宏紀|実存科学研究所


終わりがあると仮に置くことで、生が構造化される。

親愛なるあなたへ

今日は雨が降っている。

私は2026年の春の終わりにこの手紙を書いている。あなたがこれを読んでいるのは、たぶん2274年あたりのどこかだ。雨が降っているかどうかは、私には分からない。

私は今、メタ・リバースという時期に入ったところだ。

メタ・リバースというのは、私が勝手につけた名前だ。冥王星という星が、私が生まれた瞬間に水星があった場所に、ぴったり重なる。そういう時期のことだ。

約1年7ヶ月続く。次に同じことが起きるのは、248年後だ。それで、248年後のあなたに宛てて書いている。

この時期、思考と言語と認識のOSが書き換わる。私はそれを、リアルタイムで記録しようとしている。

そういう時期に、ある種のイメージが降りてきた。今日はそのことを書きたい。

もし、私の人生に幕が下りるとしたら。

そういう仮定の話だ。

私の物語に出演してくれた人たちが、舞台に一人ずつ出てくる。

  • 子どものころに遊んだ友人
  • 仕事で出会った同僚
  • 恋人だった人

そして、私を深く傷つけた人も、私が深く傷つけた人も、同じ舞台に出てくる。

みんなが一列に並んで、観客席に向かって礼をする。

私はその観客席にいる。拍手をしている。

これがカーテンコールというものだ。演劇のあとに、役者たちが役を脱いで観客に挨拶する儀式のことだ。

この一週間ほど、私はこのイメージを、ふとした瞬間に見るようになった。

私は死を信じていない。

信じていない、という言い方は正確ではないかもしれない。

死について何かを言うことを、私は留保している、というのが近い。

死があるかどうかは、原理的に知り得ないからだ。

経験した人は、戻ってきて教えてくれない。

だから私は、死生観のようなものを持たない。持たないし、持てない。

それなのに、カーテンコールのイメージは私の中に現れている。

これは妙なことだ。だから、書き留めている。

ある時、気づいた。

私は死を信じていないけれど、「終わりがある」という仮構を採用した瞬間に、人生の構造が立ち上がる

これは信仰ではない。運用だ。

終わりがあるかもしれないし、ないかもしれない。それは知り得ない。

ただ、終わりがあると仮に置いてみると、人生が突然、輪郭を持ち始める。

何を守り、何を捨て、何を残すのか。

誰と過ごし、誰と過ごさないのか。

そういう問いが、勝手にこちらに向かって歩いてくる。

仮構を採用すると、生が構造化される。

文学の世界に、メタ・フィクションという言葉がある。

物語が、自分が物語であることを知っている物語のこと。

登場人物が、ふとした瞬間に「自分は物語の中にいる」と気づいてしまう。そういう作品のことを指す。

人生もそうなのだろう。

私は今、自分の人生を生きながら、同時にそれを観客席から見ている。役者であり、観客でもある。

この二重化が、メタ・リバースの初日に起きた。これがOSの書き換えの第一歩なのだろう。

もう一つ、最近気づいたことがある。

私は、のようなものになりつつある。

家族を支える柱。仕事を支える柱。役を演じながら、舞台そのものを支える者。

誰かに任命されたわけではない。気がついたら、そうなっていた。

終わりがあると仮に置くことで、自分が誰の何を支えているのかが見えてくる。だから柱になる。

カーテンコールが見えるようになると、人は柱になる。重さを引き受ける視座が、そこに現れるからだ。

役者は、舞台の上で全力を出せばいい。

観客は、座って観ていればいい。

だが、舞台そのものを支える柱は、誰の目にも映らないまま、ただ立っていなければならない。

私はそういう存在になりつつある。

248年後のあなたへ

あなたの時代に、メタ・フィクションという言葉がまだあるかは分からない。カーテンコールという演劇の儀式が、まだ行われているかも分からない。

でも──

終わりがあると仮に置くことで、生が構造化される。

この体験は、人類が続く限り、誰かが繰り返している。

あなたが今、何を抱えているか、私は知らない。

けれど、もしあなたが、自分の人生を観客席から見ているような感覚を持っているとしたら。そして、いつのまにか柱のようなものになってしまっていると感じているとしたら。

それは、おかしなことではない。

メタ・リバースは、まだ始まったばかりだ。私はこれから、何が書き換わっていくのかを、記録していく。

雨はまだ降っている。
言葉は止んだ。

前回の手紙: メタ・リバース 序章 ── 248年越しの手紙

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